Ulefoneが6月にリリースした「Armor 11T」は、FLIRによるサーモグラフィー撮影が可能な5Gスマートフォンだ。
UlefoneのArmorシリーズお得意の耐衝撃・IP68/IP69K準拠の高い堅牢性に加え、MediaTekの5G対応チップセット「Dimensity 800」を搭載でそこそこ高い性能を発揮。多機能・全方位スマートフォンという意味で、気になっているユーザーはかなり多いのではないだろうか。
今回はBanggoodより1台購入したので、レビューをお届けしたい。
いわゆる中華スマホだが……魅力満載!
Ulefoneといえば、BlackviewやUMIDIGI、OUKITEL、DOOGEE、ELEPHONEなどと並ぶ中国の中堅スマートフォンメーカー。さすがにXiaomiやOPPO、Huaweiといった中国大手ほどの知名度はないし、Qualcomm製プロセッサではなくMediaTek製プロセッサの採用に留まる。
正直なところコストパフォーマンスもそれほど高くはないのだが、堅牢性に優れた筐体を採用したArmorシリーズは大手にはない選択肢であり、一定の需要があるのも確かだ。
その中でArmor 11Tは、FLIRカメラによるサーモグラフィー撮影に対応するという、一風変わった機能を備えたモデル。
同社は以前に「Armor 9T」というFLIR搭載モデルをリリースしていたのだが、搭載プロセッサはHelio P90で4Gまでの対応だった。Armor 11Tでは新たにDimensity 800チップセットを採用することで性能が大幅に向上し、新たに5Gに対応したのが最大のトピックだ。
▼FLIRカメラの搭載が最大のトピック
▼プロセッサがDimensity 800となり、5G通信に対応し性能も向上
筆者がBanggoodで購入した際の価格は56,797円と、ミドルレンジプラスα程度の金額。Dimensity 800搭載スマートフォンとしてみると高価な部類だと思われるが、メモリは8GBでストレージは256GBとハイエンド相当。そしてFLIR搭載や防水防塵耐衝撃といった付加価値を加味すると、コストパフォーマンスは相当いい。FLIRだけで最低2万円の価値があるからだ。
また、さすがにFeliCaは非対応だが、NFCをサポート。さらに10Wまでながら無接点充電に対応するのもトピック。USB Type-Cによる充電もできるが、水に濡れた状態でType-C充電を行なうのはタブー。本機はキャップレスのためなおさらだ。こういう時に便利なのが無接点充電であり、筆者としては高く評価したい。
▼ワイヤレス充電に対応するのもトピック
唯一物足りない点といえば、720×1,560ドット表示対応の6.1インチ液晶だろう。正直5万円もするモデルだし、これが1080p液晶になったとしてもさほどコスト増にはならないはずで、なぜこの解像度にしたのか理解に苦しむ。フォントはスムーズに表示されるが、ただ、写真や動画視聴ではやはり今一歩精細感に欠ける印象だ。
Ulefone Armor 11Tの主な仕様:
プロセッサ | MediaTek Demensity 800(Cortex-A76×4、Cortex-A55×4、Mali-G57 MC4) |
メモリ | LPDDR4x 8GB |
ストレージ | UFS 2.1 256GB |
ディスプレイ | 720×1,560ドット6.1インチIPS |
OS | Android 11 |
カメラ | 4,800万画素/F1.8 26mm相当メイン、200万画素マクロ、200万画素深度、500万画素FLIR用、FLIRサーマルカメラ、1,600万画素前面 |
ネットワーク | 5G/4G/3G/2G、IEEE 802.11ac無線LAN、Bluetooth 5.0 |
インターフェース | USB 2.0 Type-C、指紋センサー |
その他機能 | NFC、10W無接点充電、IP68防水、IP69K防水 |
本体サイズ | 81.6×163.8×14.2mm |
本体重量 | 293g |
モバイルバッテリを持ち運ぶ覚悟が必要
開封してまず笑ってしまったのが筐体の厚さ。Banggoodや公式サイトでは、それなりに薄く見えてスタイリッシュなのだが、実際はスペックにある通り14.2mmと、薄型ノートPC顔負けの厚さはあり、一般的なスマートフォンの1.5倍ほどの厚み。最初はおまけのモバイルバッテリかと勘違いしてしまうほどだった。
おそらく公式写真はスリムに見せるような画像加工をしている。堅牢スマホとしてみれば普通なのだが、実際に購入する際は覚悟して欲しい。
▼Banggoodの写真だとそこそこ薄いように見えるが……
▼実物は相当分厚い。なんせ14.2mmなので、薄いノートPCより厚い
▼Armor 11T本体
付属品はACアダプタ、USB Type-CアダプタおよびUSB Type-C→3.5mm変換プラグ、強化ガラス保護フィルム。本機は3.5mmミニジャックがないためなのだが、わざわざ変換プラグを使うのは稀だろう。一方でガラス保護フィルムは、標準で貼り付けられているPET製のフィルムより指すべりがよく、隅々までピッタリフィットするので、購入して早々に貼り直した。
▼製品パッケージ
▼付属品。強化ガラスの保護フィルムが付属するのはいい
製品のパーツ個々に関して言えば、周囲のバンパーフレームが若干チープ感漂うのだが、フラットな背面やカメラ周辺のフレーム、側面の金属パーツと金属ボタンは質感が良い。さすがIP68/IP69Kを謳うだけあって隙間は一切なく、ビルドクオリティは高い。画面の枠はかなり太いのだが、これは1.2mの高さからコンクリート上に落としても大丈夫な耐衝撃性を確保するのに必須だったのだと思われる。筐体の厚みも同様だ。
▼ずっしりと重い筐体
▼背面の質感は高い
▼本体底面にSIMカードスロットとUSB Type-C
▼右側面に音量ボタン、電源ボタン、指紋センサーを装備
▼左側面にショートカットボタンを装備
ちなみに公式YouTubeでは、本体の分解動画まで用意されているが、動画を見る限り、2層の防水シールドを備えているようだ。すべてを取り除いて厚みがあるようだが、液晶後部にヒートパイプを搭載している辺りや、前面の液晶保護構造などがこの厚さに影響しているようだ。
いずれにしても、スマートフォンを持ち歩くより、10,000mAh前後の薄型モバイルバッテリを持ち歩く感覚だろう。
ほぼピュアなAndroid 11だがチューニング不足か
OSにはAndroid 11が採用されている。本機のAndroid 11はほぼ素であり、UIやメッセージを含めてさほどカスタマイズが入っていないようだ。
唯一変わっているのは設定画面で、左側面にあるオレンジ色の「スマートキー」の機能を割り当てたり、チャイルドモード、モーションジェスチャーの設定、手袋モード、片手モードなどへのアクセスは、設定の中にある「関数」のタブの中に入っている。なお、この中のほとんどの設定項目は日本語化されておらず、英語表記となっている。
▼ほとんど素の状態のAndroid 11
▼設定画面。独自機能は「関数」にまとめられている
▼関数の設定画面
▼側面のショートカットボタンの設定
▼メモリは8GBもある
素のUIのため特筆すべき点はあまりないのだが、カメラについては残念ながらあまり使い勝手はよくない。特に、フォーカスを当てたいところをタッチしてから実際に合焦が開始するまで1秒強、合焦まで2秒近くかかるからだ。なぜこのようなレスポンスの悪いカメラになったのかわからないが、チューニング不足は明らかだ。
ちなみにカメラの画質は実用レベルだが、さすがに夜や暗所の撮影は向かない。AFの動作が遅いのでそもそもあまり使う気になれないというのが最大のネック。もっとも、カメラ性能に期待して本機を買うユーザーもいないから問題はないだろう。
▼作例。画質以前にAFが遅いためあまり使う気になれないのが残念
また、試用中、無線LANの接続性が芳しくなかったり、側面のショートカットボタンが突然効かなくなったりと、バグが散見された。もっとも、この辺りは大手とてよくあることなので多少は我慢はできるが、Ulefoneの場合はあまりアップデートによる修正が期待できないところが痛い。
FLIRサーマルカメラの撮影は「MyFLIR」から
肝心なFLIRサーマルカメラの利用についてだが、「MyFLIR」というアプリから行なう。起動すると、早々にサーモグラフィーが撮影できるため戸惑うことはないだろう。
▼MyFLIRアプリ
▼エフェクトは9種類から選べる
▼スポットを計測する機能もある
ちなみに本機は「ペンタ(5つの)カメラを搭載」などと謳われているが、このうち深度計測用なのでそこからイメージが撮影できるわけではない。そしてメインの4,800万画素、200万画素マクロはカメラアプリから撮影できるが、残る2つがFLIR使用時に使われるカメラとなる。
1つはサーモグラフィー画像用で、もう1つはサーモグラフィーでは取得できないイメージ用の500万画素カメラだ。この500万画素カメラのほうから画像のエッジを検出し、サーモグラフィーに被せて物体の輪郭を強調して撮影を行なう、といった仕組みである。
▼カメラモジュールのアップ。金属枠内のカメラがFLIRと、FLIRとともに使われる500万画素センサーだ
こういったギミックのため、近距離の物体を撮影する際はどうしても2つのカメラが離れていることによる視差が生じるのだが、My FLIRにはこの視差を補正するための機能も備わっている(上、左から2番目のアイコンを選択するとMSXが選択されているのだが、その下に位置調整が行なえるスライダーが表示される)のため心配は無用である。
▼近距離では視差が生じるため、手動で調整する
機能としては、指定したポイントの温度を表示する機能や、枠を表示させてその枠の中の平均温度を求める機能、サーモグラフィーの温度分布グラフを表示しておく機能などを備えており、機能面としてはかなり豊富。UIもとっつきやすいため、初めてサーモグラフィーを撮る初心者でも、すぐに使っていて楽しくなることだろう。
ちなみに使っていると数秒に一回画像が止まるのだが、これは自動キャリブレーションが定期的に行なわれているためである。設定で停止させることもできるが精度に問題が生じるので、このまま使うか、どうしても気になるようならオフにして、温度計測時に右上のキャリブレーションボタンを押す習慣をつけておくと良い。
▼自動補正が数秒に一度は入るため、それが鬱陶しい場合はオプションで切ることもできる
性能はミドルレンジ
本機はFLIRがメインであり、FLIR自体はストレスなく使えるので、性能が云々という機種でもない気がするが、Dimensity 800の性能にも興味があったため、Antutu Benchmark v9.1.2で計測しておいた。
結果は360,835と、現在市場にある端末としてはミドルレンジに位置するスコアであった。中でもGPUのスコアが11万と比較的良かったのだが、解像度が低いことを加味すると、やはりゲーム向けとは言えないだろう。
ただ、一応ゲームをプレイできるにはできる。試しに「原神」をプレイしてみたが、画質設定が「中」で30fpsながら、ゲーム自体はスムーズに進行できた。MediaTekの主流といえばHelio P60だろうが、その性能とは雲泥の差があると言ってもいいだろう。
FLIRを使うユーザーにはおすすめ
Armor 11Tのメリットとデメリットを要約すると以下のようになる。
メリット
- FLIR搭載を考えると安い
- FLIRはかなり高機能で使いやすい
- 耐衝撃防水で安心して利用できる
- Dimensity 800搭載で比較的高機能
- ラグドフォンなのにNFC対応
- 無接点充電により端子が濡れてても充電可能
- 5G対応
- シンプルな背面デザインで違和感なし
デメリット
- 分厚く重い筐体。モバイルバッテリを持ち運ぶ覚悟で
- 液晶解像度が低い
- 絶対性能が低い
- ソフトウェアの詰めが甘い
- ソフトウェアの更新が期待できない
FLIRのモジュール単体が安くても2万円台半ば、上位モデルでは4万円するほど現状、Armor 11Tのコストパフォーマンスは非常に高いと断言していいだろう。ちなみにFLIR非搭載の「Armor 11」もあるが、差額はわずか1万4千円程度しかないので、Armor 11の存在価値に疑問を呈するほどである。FLIRはコロナ禍の中、体温計測などにも利用できるため、一度使い出し始めたらあまりの利便さに手放せなくなるだろう。
ただ、Armor 11の筐体の分厚さにはホント肩透かしを食らい、ちょっと気分が悪かった。あの写真なら、せめて実物はあと2mmほど薄くしてほしい。それかせめて実物に即した広報写真であれば、筆者も納得して購入していただろうとは思う。Armor 11Tのすべてのデメリットに目を瞑ってもいいが、購入前の消費者にも正直に向き合ってほしいものである。
▼分厚い筐体。薄型ノートPCも真っ青だろう
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